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日記

2017-04-14

双六渡世、勧誘に遇った

 業務終了。予定の会合は、直前でキャンセルとなった。左の手首にはめた時計が[18:30]を示していた。さて、どうするか。
 俺は職場を出て、一番近い駅へ向かった。その途中、おばちゃんが一人でやっている定食屋の暖簾をくぐった。テーブルはない。カウンターのみの小さな店だ。存在は知っていたが、実際に入ったのは今回が初めてである。
 俺の他に客の姿はなかった。空いた席に座り、焼魚定食を注文した。魚が好きである。一時「魚食男子」を自称して、周囲の失笑を買ったものだ。

 焼酎の水割りを呑みながら、料理の完成を待った。注文を受けてから魚を焼き始めるので、相応の時間がかかる。それが待てない者は、こういう店には来ない方がいい。厨房に置かれた小型ラジオが、野球中継をやっていた。解説はタブチさん。
 定食は旨かった。価格も良心的だった。期待通りの完成度。良い店を見つけた。食後、おばちゃんと少し話をした。楽しい会話だった。初めて会ったのに、そんな気がしないのは、おばちゃんの人徳であろうし、俺が、場慣れならぬ「酒場慣れ」していることも多少関係しているのだと思う。

 勘定を払い、店を出た。駅の方角に歩き始めた俺に、自転車の二人組が声をかけてきた。なんやら教の勧誘であった。一見柔和な感じだが、双眸に不気味な光が宿っていた。二人がかりで、俺を「そちらの世界」に引き摺り込むつもりらしい。内心「面倒なことになったな…」と、思った。
 思ったのだが、俺が「神も仏も信用できない。俺は俺以外の人間は誰も信じないし、信じられない」というような意味のことを云うと、二人はあっさり退散してくれた。予想と異なる案外な展開であった。
 どうやら「こういうややこしい類い(バカ)とは、関わらない方がいい…」と、判断したらしい。なかなか賢明な人たちである。二人の勧誘員は、信号が青に変わると、横断歩道を渡り、夜の中へ消えて行った。さようなら。再会の日が二度と訪れないことを祈りつつ、俺は俺の道を歩き始めた。

 翌日(つまり、今日)の朝。俺は布団を出て、洗面所に行き、顔を洗った。洗ってから、台所の湯沸かし器にミネラル水を注いだ。沸き立ての湯で、インスタントコーヒーを淹れた。昨日、閉店間近のパン屋で買った餡ドーナツを齧りながら、熱いやつを飲んだ。窓の向こうに、青空が広がっていた。
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